「トモ、東京の人間は冷たいけんのう。わしらみとおなもんが簡単につるっと騙されるんじゃけえ気をつけんさいよ。」
と21歳の時の僕を送り出してくれた東京には一度も行ったことのない広島の友達の藤井くんが教えてくれました。
東京に来てそれまで広島で暮らした以上の年月を過ごしてきたが、友達の言っていたことは見事に外れ、お客さん始め、スタッフ、近所の人たちと故郷以上の暖かさに僕は毎日感謝してます。
「東京の人間もけっこうええで」
といつか会うことがあったら話そうと思ってます。
久し振りに財布を落とした。
久し振りということは何度かあったということなのだが、話すと長くなるのでそれはまた今度。
いろんなカードが入っていて当然、運転免許証も入っているので再交付することにした。
朝早くにバイクに乗って家を出て品川にある運転免許試験場に向かう。
途中、目黒駅の交差点にさしかかり信号で止まる。
目の前を通勤通学の人たちが足早に行き交う。
その中に一台の自転車が走り抜ける。
その自転車が横断歩道を渡りきったところで滑って転ぶ。
「ガシャン!」
60代くらいのおじさんが乗っていて地面に転がる。
それと同時にカゴの中に入っていたミカンが歩道に散乱する。
『あ〜あ。やっちゃったよ。大丈夫?』
と思いながら見る。
高齢なのですぐに起き上がれないようだ。そうしている間にも無情にミカンは転がる。
信号も代わり歩行者も立ち止まる。
青になったのでバイクを発進させるのだが、見ていても誰一人としておっちゃんを助けようとしない。
お父さんと女子高生。サラリーマンにOL。近くの専門学校生らしき派手な集団。
誰一人として起き上がろうとしてるおっちゃんを助けようとしない。
サラリーマンの足下にミカンが転がる。
それを足で止める。
バイクのエンジンを止め、キーを抜き、車の間を走り抜けおっちゃんを抱え起こす。
「大丈夫っすか?」
「あ、スイマセン・・・」
幸いケガはないみたいだ。
転がるミカンを拾いながら突っ立ってる奴らの足元を見ていたら怒りが頂点に達してしまった。
「おい!てめえら!見てるだけかよ!?目の前に倒れてんのは人だろ?おまえ!そこのおまえだよ!手があんなら拾ってやれよ!なに足で止めてんだよ!」
サラリーマンが驚いて足下からミカンを拾って持ってきてオレに差し出す。オレに恵んでくれんのか?
「だから!ついでにその辺に転がってるのも拾って来いよ!」
そう言うと拾い出した。
後、数名、一緒に拾ってくれた。
自転車を起こしておっちゃんも大丈夫そうなので
「はい。じゃあ、気をつけてね。」
とかっちょよく立ち去ろうとしたら信号が赤になっていた。・・・ダサっ!
それにしても嫌な思いをした。
目の前に人が倒れていて誰一人として助けようとしない光景は怖ささえ感じた。
助け起こそうとしたらおっちゃんが
「オ・・オレのミカンを取るんじゃねえぇえええ!」
と刃物を持って襲いかかってくるとでも思ってるのか?
電車の中の酔っぱらいなら関わり合ってとばっちりを食うのかも知れないが事なかれ主義もここまで来ると末期だな。
「人間辞めろよ」
と言いたい。娘といっしょにいた親父も助け起こしていいとこ見せたら娘も「お父さんの洗濯物と一緒に洗わないでよ!」なんて言わないかも知れないだろう?
無視して会社に行くより「ありがとうございます」と朝から言われた方が気持ちよく仕事もできるだろう?
自分のお父さんが違う場所でこんなめに合ってたら心が痛むだろう?
いいじゃねえかよ。朝の通勤時間のほんの少しの時間、いいことしたって。
「藤井くん、やっぱし東京の人間は冷たいんかのう?」