10年くらい前に武道館でボーイズ2メンのコンサートに行った。
帰りにてくてく歩いて飯田橋に出る。
お腹が空いたのでなにか食べて帰ろうと思った。
僕はチェーン店系の店があまり好きじゃなく、「飯田橋ならでは」の店を探した。
駅前のガードをくぐってちょっと裏道に入ったところにそれはあった。
人通りもほとんど無く、ネオンも無く、
「戻ろうか・・」
と友達に向かって言おうとしたときに小さな赤い看板が目に入った。
これが昼間なら、もっと多くの看板があるところなら見落としたところだった。
淋しいとおりだからこそ目に入るほどの存在感のない看板だった。
その看板には白地に赤のペンキで「占い」と描いてあった。
店構え、というか、どう見ても「民家」だった。それも相当古い。
引き戸のガラス戸になっていて、玄関先には枯れた植物が所狭しと並び、玄関先には段ボールや得体の知れない荷物が山積みになっていた。
その奥の土間を上がったところに一人の老婆がテレビを見ていた。
そこで帰っても良かった。
目的は食事なんだから当然、入る必要など無い。家の中からいい匂いがしてるわけでもない。
それでも、自分の好奇心という悪魔のささやきにどうしても勝てない。
そう、今までその悪魔のささやきのせいで何度辛い目にあったことか・・
やめよう!引き返そう!美味しいものをたらふく食べて今見たコンサートの話しに花を咲かせよう!それでいいじゃないか。
ガラッ!
「あ・・あのぉ〜表に占いって書いてあったんですけどぉ〜・・」
意志の弱い男です僕は。
恐る恐る聞くと、おばあちゃんは、テレビのスイッチを切ってこっちにむき直す。
そして本のページをめくるように極々自然に
「はい、はい。占いね。そこ座って。」
と指さされた「そこ」にはイスらしきものはなかったので
「地べたに?」と聞くと、
「ああ、イスなかったね。そこらへんのなんでもいいよ」
と言われたので比較的座りやすそうな木箱があったので壊れないのを確かめて座った。
「あなた、お歳は?何月生まれ?」
ありきたりな質問をされる。ふんふん頷きながらメモも取らずに考え込む。
「あなた、サラリーマンに向いてないねぇ〜」
その日の僕は少し記憶が曖昧だがJPゴルチェとか着ていたのでどう転んでもサラリーマンには見えなかった。
質問をしてみた。
「勤めを辞めて店を出そうと思うんだけど、どこがいいですか?」
おばあちゃんはしばし考えて
「東京はダメだねっ!ダメダメ。東京は・・。」
「え?どうしてですか?」
するとおばあちゃんの目の奥がキラリン!と光った。すると、急に小声で。
「実はね・・・これは内緒の話なんだけどね。ここで聞いたって言わないでよ。」
「はい」
「都庁はね、移転するのよっ!」
「え?どこに?」
「横浜よ。横浜っ!」
「え?いつですか?」
「もうすぐよっ!もうすぐ!」
「横浜のどこに移転するんですか?」
「横浜の横浜よっ!」
「え?でも、都庁が出来るような土地がないじゃないですか!横浜には・・・。」
「だってそう聞いたんだもん!(--#)」
うわさ話かよっ!(``)/゛オマイナァ!!
おばあちゃんに千円渡して「店」を出た。
おばあちゃんの妄想の話し相手になって千円かぁ〜
めちゃめちゃ割あわねぇ〜。
あれから10年過ぎたけど、未だ首都は移転してないね。
おしマイケル