昨日、宇宙人に会いました。
そいつは、なにを間違えたのか、人間の"売れないホスト"みたいな男に変身してました。
宇宙船から降りた場所が新宿の歌舞伎町の裏あたりだったんでしょうか?
そいつは、恵比寿に拠点を置き、地球人を観察しているみたいです。
僕が朝、営業前に、店の前を掃除しているとき、そいつは声をかけてきました。
「トリートメントっていくらっすか?」
顔も髪の毛も明らかに"劣化"していました。
多分、被ってる"ホスト系のスーツ"がもう古くなってあちこちがほころんできたのでしょう。
とりあえず、毛髪の補修がしかたったみたいです。
僕は優しく笑顔で答えました。
「4000円です。ただし、これは、トリートメント"単品"の値段で、カットとかすると別にカット料金がかかります。"トリートメントだけ"でしたら、それに"シャンプー&ブロー"の料金3500円がかかります。ので合わせて7500円に消費税になります。」
可もなく不可もない、解りやすい説明だったと思います。
すると、宇宙人がこう言いました。
「え〜、シャンプーは家でしてくるんで、いらないっス。ブローも家に帰ってやるからいらないっス。なんで、トリートメントだけでいいっス。」
言葉の語尾に「ス」を付けるのが、彼の星の言語なんでしょうか?
まあ、想定内なので、説明を加えました。
「いえ、"トリートメントだけ"っていうメニューはないんですよ。また、トリートメントを付けたらその後流さなくちゃいけないんですよ。」
ま、そういうわけで、理解して貰えたと思ってました。
僕には人間に見えたので。
すると、彼はこう言いました。
「じゃあ、流さなくていいっスよ。自分で帰って流すから。」
その時、僕は初めて彼が宇宙人だということが解りました。
どこかに"チャック"がないか目を凝らして見たのですが、さすが、高度のスーツなようで見つけることが出来ませんでした。
もしかして、彼らはこの地球を滅ぼすだけの兵器を持っているかも知れません。
なので、こうして対応してる僕はとても大切な"任務"をしてるんでしょう。
僕の言動ひとつで宇宙戦争が勃発しかねないとしたら、こりゃ大変だ!
なので、同じ人間同士なら、さっきの説明で解ってもらえたはずだけど、
宇宙人なら、もう少し解りやすく説明する必要があります。
「すいません、もう少し解りやすく説明しますね。
あなたがどこぞのレストランに食事をしに行ったとします。テイクアウト不可な店です。そこで料理に"付属"する"サラダ"を頼むとします。それはあくまでメインディッシュの料理とセットで注文するサラダだとします。
あなたはそれを、『肉も、魚も食べない。皿もナイフもフォークも自分で用意するからサラダだけ出せ。』と言っているのと同じことなんです。ちょっと困りますよね?」
僕の言った説明で解ってもらえたたかどうか解りませんが、彼はこう言いました。
「じゃあ、この辺で"トリートメントだけやってくれる"店、どこナノ?」
"ナノ"を語尾に付けるも彼の星の言語なんでしょうか?
地球で、それも日本では親しい間柄でないととても失礼な言葉になります。
そもそも、僕の店がなんの店なのか解ってなかったみたいです。
とりあえず、宇宙戦争を回避するために答えました。
「すいません、うちは、"そういう美容室"を紹介する店じゃないので、ご自分で探されるといいと思いますよ。幸い、この辺りにはたくさん美容室がありますから。」
と伝えると、彼は
「ケチ!」
とひと言言い残してその場を去っていきました。
"ケチ"とは彼の星の言語で「ごきげんよう」もしくは「アディオス!アミーゴ!」という意味なのでしょうか。
地球で、それも日本で去り際にそんなことを言うと、時として後ろから蹴りを入れられることもあるので、
教えてあげようとおもったけど、そう思ったときには彼の背中はもうすで、向こうの路地を曲がろうとしてたので、この暑さの中、追いかけてまではさすがに行く気力も体力も無かったので、後のことはNASAか、もっと"すごい人"たちに任せることにして、一市民の僕の責任は果たせたように思えました。
照り返す太陽の光が眩しい朝の出来事でした。
おしまい。