以前、僕が勤めていた美容室で僕は最新のデザインや技術を研究し全店に広める「技術統括」の仕事をさせてもらっていました。
都内に約20店舗あるチェーン店で、時折頼まれて「臨店講習」として営業後、他店に出向いて技術指導とかやらせてもらっていた。
ある店舗に出向いた時のこと、その日はちょうど忙しくてまだお客様がいて、始めるには少し時間があったので店内を観て周っていたら、新人のアシスタントの女の子がやってきて、
「お疲れ様です!今日はよろしくお願いします!あの〜、ひとつ、質問してもいいですか?」
と言われたので「いいよ」と答えたら
「あの〜、すんごく恥ずかしい質問なんですけど、いいですか?」
と言うので「いいよ、なんでも聞いて」と言うと
「実は〜『シャギー』ってあるじゃないですか〜。あれ、私、なんとなくしかわからなかったんで、先輩に聞いたら、『おまえ、美容師やってんのに、そんなんも解かんねえのかよ、美容師辞めたほうがいいんじゃね?』って言われちゃって、でも、わかんなくって・・」
当時はまだインターネットも無く、当然「ググる」ことも出来ず、さらに美容師の専門用語なので、図書館で調べても多分わからなかったと思います。
「なんだと思う?」
僕の問に彼女は
「あの〜、髪の毛の横とかがシャシャシャってなってるやつだと・・・」
「そうだよね〜。なんとなくわかってるって感じだよね。じゃあ、この後、みんなで考えてみようか。」
と言って暫くして、お客様も終わり、お店も片付けて講習を始めることになりました。
「お疲れ様でした!今日は新しいテクニックをみなさんと一緒に勉強しに来たんですが、その前に、ちょっとみんなに教えて欲しいことがあります。最近のデザインで『シャギー』って言葉がありますよね?「サイドにシャギーを入れて」とかってあれです。あれの『定義』を説明してもらえませんか?」
と話して、スタイリスト(カットが出来る人)に端から聞いていきました。
すると、殆どの人が「シャシャシャってなってるやつ」とか「前髪がシャシャってなってるやつ」、「軽い感じ?」とか答えが曖昧でさっき聞いてきたアシスタントの子とほぼ変わらない答えが返ってきました。
これは、全員で美容師を辞めなくてはいけない緊急事態です!(笑)
僕たち美容師は専門職なので「専門用語」をよく使います。でも、それをちゃんと理解しないまま覚えていると間違った技術をしてしまうかもしれません。
また、「理解してる」というのは「全くそのことに関して知識が無い人にも解るように説明できて」始めて「理解してる」と言えるのではないでしょうか?
先日、夜中の討論番組で芸人のウーマンラッシュアワーの村本さんが尖閣諸島問題や沖縄問題に触れて自分なりの意見を言ったところ他の出演者から
「小学生からやり直せ!」
と罵倒され、ネットニュースで炎上して、「暴走してコンビ解散?」とか騒がれてました。これを観てふと、昔の記憶を思い出しました。
「知らない」ということは恥ずかしいことではない、「知ろうとしない」ことや「知ってるつも」」なのが恥ずかしいことで、さらに、「知ってる人が知らない人をバカにする」のは最も恥ずかしいことだと僕は思います。
村本さんは専門家ではなく、それでも「関心」があるから、その話になったんだと思います。
「シャギー」を知らなかった彼女は先輩に辞めろとまで言われながらも勇気を出して僕に聞いてきたそして、答えを知れば、また、それを知らない人に伝えることが出来る。
とても素晴らしいことではないでしょうか?
僕はこの歳になっても知らないことだらけです。だから本を読みます。
多分、一生かかっても真実にたどり着かないかもしれません。それでも「知る」ことを止めない限り、僕はずっと今の自分よりも成長出来ると思っています。
おしまい
「シャギー」とは:
英語「shaggy」は「毛むくじゃらの」の意。ファッション用語では「毛羽立った」と使われ毛足の長いセーターやコートなどに使われます。
美容師業界では「不揃いにカットする」とされて、主に、ハサミで「パッツン」と揃えて重いラインが出るのをすきバサミやレザーや特殊なカット技法を用いて不揃いにカットしてラインをぼかして軽さを表現する技法として使われます。
ちなみに、外国で「前髪をシャギーにしてください」とオーダーするとガタガタに切られますので気をつけてくださいね。(笑)