僕が美容師になりたての時、
その美容室の「先生」のお客さんで「近所のタバコ屋のおばあちゃん」がいました。
名前を「橋本のおばあちゃん」と言います。
年の頃は当時で80はいってたと思います。
店からわずか100mくらい離れた家から腰を曲げて歩いて来てくれます。
僕はなぜか、橋本のおばあちゃんに気に入られていて、当時、珍しかった「シャンプー指名」を頂いてました。
なので、どんなに忙しくても、橋本のおばあちゃんは僕の手が空くのを待ってくれてました。
シャンプーをしながら、他愛もない会話をします。
昨日見たテレビがどうだったとか、芸能人の誰がどうだったかとか。
橋本のおばあちゃんは仕入れてきたネタをいろいろ僕に教えてくれます。
当時の僕はお金がなくて、よく、山に入って「山菜」を採ってきて佃煮を作っていました。
最初はそのまま煮立てて醤油をぶち込んで、あまりのエグさにのたうち回ったことを話すと橋本のおばあちゃんは
「そりゃあ、あんた、アクを取らんといけんよ。ほいで、ダシも入れとらんのじゃろう?」
と教えてくれて、次に来た時、作ってくれた山菜の佃煮をタッパに入れて持ってきてくれました。
未だに、おばあちゃんの味を超える佃煮は作れません。
先生のセットが終わってお会計をして、変えるときに、「もう一仕事」あります。
橋本のおばあちゃんの家は僕なら軽く1分くらいで着くのですが、橋本のおばあちゃんの歩きだと30分くらいかかります。
さらに歩道の無いバス通なので、危ないので、いつも終わったら僕がおばあちゃんの家まで手を引いて送っていくのがお約束でした。
道すがら、橋本のおばあちゃんといろんな話をします。
そして、家に着いたら必ず、お店のタバコを一箱僕にくれます(当時は喫煙してました)
おじいちゃんもいて、僕を孫のように可愛がってくれて、
「ぼたもち食べていきんさい!」
「ご飯まだじゃろ?食べていきんさい!」
と言ってくれます。
しかし、送ったら早く帰らないと、先生に怒られます。
なので、「いいこと」を思いつきました。
お店から見えなくなったところで、橋本のおばあちゃんをおぶってダッシュで送ります。
それだけでも20分くらい稼げます。
その分、おばあちゃんの家でお菓子を食べたり、ご飯を頂いたりしてました。
おばあちゃんは、毎回、僕がシャンプーをする度に
「あんたのシャンプーは気持ちええねえ〜。日本一じゃね。私ゃ生まれてこの方、こがいに気持ちのええシャンプーしてもろうたことないよ〜。先生、この子はええ美容師さんになるよ!きっと!」
と褒めてくれました。
学生の頃だと、まず「人に必要とされる」ことはありません。
衣食住、全て親に賄ってもらっているわけですから、他人のことやる前に自分のことしろよ、って感じです。
なので、「他人に感謝されること」はありません。
当時、まだシャンプーしか出来ない僕なんですが、橋本のおばあちゃんの言葉はかなり響きました。
お客さんに喜んでもらえる。キレイ事でなく、それは美容師の仕事の醍醐味だと思います。
何十店舗も持ってるオーナーでも、直接お客さんに携わらない限りその言葉はいただけません。
僕は常に「気持ちいい♡」と言ってもらえるシャンプーを心がけてきました。
それが未だ続いています。
「あんたのシャンプーは気持ちええねえ〜。」
それが僕の美容師人生のスタートであり、
こうして「アロマヘッドSPA」をみなさんに心をこめてさせてもらえる理由なんです。
橋本のおばあちゃん、ありがとね。
おしまい